Memo #94
(English translation available here)
By Etsuko Kato – katoets [at] icu.ac.jp
「自分探し」という語は、1990年代初頭以来、日本であまりに安直に使われてきた決まり文句である。この時期日本ではバブル経済が崩壊し、大卒者でさえ多くが不安定な、やり甲斐のない仕事に就かざるを得なくなった。以来、「自分探しのための移動」をする若者たちは次第に増えていき、太平洋を越えて移動する者たちの中で新カテゴ
リーを形成している。
「自分探しの移動者」とは、外国で、自分のやりたいことを捜し求める、若い単身の一時滞在者のことである。日本では数年間働いた後に職を辞す者は珍しくないが、この中に海外、典型的には英語圏に渡る人々がいる。そしてカナダは渡航先の一つである。
バンクーバーとその周辺地域には約26,000人の日本国籍者(移住者含む)が住む。ここはまた、日本からカナダに渡る年間約3,000人の語学生、約6,000人のワーキング・
ホリデー利用者(WH)の、およそ半分を引き付けるエリアでもある。これらの学生・WHの大多数は20代半ばから後半である。中国、フィリピン、インドなどのメジャーな移民供給国とは異なり、日本は、多くの学生と一時労働者をカナダに送り続ける一方、移民はほとんど送り出さないという特徴がある。
しかし、だからといって日本人一時滞在者がカナダに移民したくないというわけではない。英語を上達させるため、就労経験を積むため、そして何より日本ではできなかった、自分を見つめ直す生活をもっと続けたいがために、滞在を延長する者も珍しくないのである。
このような若者たちにとって、「本当の自分」の探求は「本当にやりたい仕事」の探求と同義であることが多い。もとの仕事が非正規であれ、正規の専門職であれ、若者たちの口に理想として上るのは、国際的な、英語を使う仕事である。若者たちがこのように似た方向に向かう背景には、1980年代以降、ある意味で今日に至るまで、日本の国策として叫ばれている「国際化」キャンペーンの影響があろう。
だがこれらの移動者たちは、必ずしもカナダに定住しない。というのも第一に、英語に未習熟で、過去のキャリアからの分断された彼/女らが就ける仕事は、日本食レストランでのウェイターといった、英語を話す必要のない単純労働に限られることが多いからである。カナダでも仕事にやり甲斐を感じられなければ、若者たちは、地球上の別の場所に一時滞在することを考え始める。第二に、地球上を飛び回ることそのものが、彼/女らの理想の自己イメージの中心にあるのである。こうして「若い」日本人一時滞在者のグローバルな「自己=仕事探し」の旅は、時に30代、40代になっても続くのである。
About the Author:
Etsuko Kato – Senior Associate Professor in Cultural Anthropology, International Christian University, Tokyo, Japan.
Link:
- 「自分探し」の移民たち ─ カナダ・バンクーバー、さまよう日本の若者 (Book by Etsuko Kato on self-searching migrants, in Japanese), 2011
- Canadians Abroad project, Asia Pacific Foundation of Canada
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