Memo #149 (English translation available here)
By 高山敬太 (Keita Takayama) – ktakayam [at]une.edu.au
今日、全国の小学校と中学校の約30%を対象に全国学力・学習状況調査(以下「学テ」)が実施された。もちろん、こうした全国的な学力テストを導入して学力の向上を図る教育政策は、日本に限ったことではない。グローバル化した「知識経済」において、国の経済的生産性を高め国際的な競争に生き残るには、労働者の知識・技能レベルの底上げが不可欠であり、そのためには全国学力テストを通じて教育の質を向上する必要がある、というのが先進国に共通する政策的見立てである。
こうした世界的な流れを反映する形で、オーストラリアと日本では、ほぼ同時期に全国的な学力テストが導入された。2008年に導入されたオーストラリアの National Assessment Program – Literacy and Numeracy (NAPLAN) (以下NAPLAN)は、公立と私立学校に在籍する3,5,7,9年生を対象に年に一度悉皆テストを行っている。一方、2007年に導入された日本の「学テ」は、公立学校に在籍する小学校6年生と中学校3年生を対象としているが、悉皆か抽出かで方針がぶれ続けてきた。初年度から2009年度までは悉皆、民主政権誕生以降の2010年度からは30%の抽出調査となったが、2013年度からは再度悉皆にすることが検討されている。また、NAPLANも「学テ」も算数・数学と国語を対象としているが、後者は本年度から理科もテスト対象としている。
こうして概観すると、確かに類似点の多いオーストラリアと日本の学力テストであるが、テスト結果の公表に関しては興味深い違いが存在する。NAPLANでは、「マイ・スクール」(My School)というウエブサイトにおいて、学校ごとのテスト結果が全国平均と比較される形で一般公開されている。また、そのウエブサイトにおいては、学校地域の経済レベルを基に算出する「社会経済指標」が同レベルの60校が、「比較可能な」学校として提示されており、これらの学校のテスト結果とも対比できるようになっている。これは、NAPLANが説明責任、学校比較、親の学校選択、競争を政策の中心に位置づけて、準市場的なメカニズムを積極的に導入していることの現れである。これにはオーストラリアの教育制度を枠付ける連邦制度と憲法が大きくかかわっている。同制度下においては、教育は州政府の直轄事項であるゆえ、連邦政府は教育事項に直接的に介入することはできない。よって、親や地域の視線という準市場が生み出す間接的な圧力を利用することで、教育水準の向上という国家目標を遂行している。
一方で、日本の「学テ」は学校ごとや市町村ごとのテスト結果の公表を原則禁止しており、文部科学省は都道府県ごとのデータのみを公表している。しかしながら、文部科学省を中心とするトップダウンな行政文化が依然として保持されている日本では、限定的な情報公開であっても、すでに文部科学省が意図した競争と同化の圧力が、学校レベルにおいて生み出されている。なぜなら、テスト結果の公表により都道府県に向けられる圧力が、そのまま垂直的な指令系統を通じで下部組織(市区町村教育委員会と学校)へと流れるからである。よって、文部科学省は、政治的対立の焦点となりがちな準市場的な教育政策に過度に頼ることなく、それでいてNAPLANと同等の競争的・同化的圧力を教育現場において生み出せたのである。
オーストラリアと日本の状況は、特定の教育政策が教育改革の「モデル」として世界規模で拡散する過程で、同化と差異化が同時進行することを示している。著しく類似した教育政策が世界中で導入される一方で、それらは同時に、各国の制度的・歴史的背景を色濃く反映する形で微妙に変容、つまり「土着化」する。
About the Author:
Keita Takayama – teaches sociology of education in School of Education, University of New England, Australia.
Links:
- The Growth of National Learning Assessments in the World, 1995-2006, United Nations Educational, Scientific and Cultural Organization, 2008.
- My School, Australian Curriculum, Assessment and Reporting Authority.
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